洗脳日記III

■今日は小1時間ほど待たされただけで、すんなりと診察を受けることが出来た。そして3回目の洗脳。いつも点滴室は私ひとりなのだが、今日は隣のベッドに若い夫婦がいた。女の方がアル中患者らしく、夫が見守る横で点滴を受けながら医者に何事かを問い掛けていた。か細い、しわがれた声だった。
 「こういう声をGin-and-water voiceというのだな。」
などと思っていると、医者が、女の容態や今後の展望について語り聞かせる声も聞こえてきた。その内容は私にとっては恐るべき内容だった。


■女は拒食症・過食症に悩まされながらアルコール依存症になり、遂にはリストカット自傷行為の一種)までして現在に至ったという。今もほとんど食べ物は受けつけず、僅かずつの回復を望むより他にないらしい。
 さらに医者は重ねてこうも言った。「若い女の人の依存症は色々併発する場合が多いので、そんなに珍しい事ではないんですよ、だから、大丈夫。」


■私の心の内を掻き乱したのは、私よりも重篤な患者が通院していたという驚きでもなければ、それが多々見られることだと平気な顔をして言ってのけた医者に対する義憤の念でもなかった。それは、我々人間が、ただ次の世代へ遺伝子を運ぶための存在でしかないのに、生きて行くためにはこうまでしなくてはならないのかという、生存への絶望と、自分自身を含めた人間存在の惨めさだった。