仔猫物語

◆もうひと月以上前の話。相方と出かけた帰り、最寄駅から線路沿いをテクテク歩いていると、遠くからネコの鳴き声がする。でもどこに居るのかわからない。相方も私もネコ好きなので、「どこに居るのかな?」と探してみるも、わからない。もう7時を廻っていて、一応線路に照明はあるけれど薄暗くてわからない。


◆そこで、肌身はなさず持ち歩いている小さな懐中電灯(でもマグライトより明るい)を手に探してみる。でも見つからない。鳴き声を頼りにさらに探してみると、線路脇の配線を通すパイプスペースの下の暗がりから声が聞こえる。ライトの光をあてるも、線路の照明の逆光になり、うまく光が届かない。それでも、そこに潜む小猫の目に光がわずかに反射して、存在を確認できた。

◆パイプスペース(以下、PSと略記)のすぐそばの線路を電車が通る度に、轟音と振動におびえて悲痛な鳴き声を上げる小猫。どうやらPSの小さな隙間に首がつかえてはさまってしまったらしい。何とか助けたいと思うものの、線路内に勝手に立ち入る訳にもいかず、ジレンマ。

◆ライトで照らすとニャーと鳴き。何とかしようと私たちが歩いて、姿が遠ざかろうとすると、見捨てられまいと必死でニャーニャー鳴く。声もかすれんばかりに。

◆もう居ても立ってもいられず、もときた道を駅まで戻り、駅員さんに救助を求めてみた。ネコがPSに挟まっていること。線路が近く、慌てて飛び出したら列車に轢かれる危険があること。「そんな話をまともに聞いてくれるだろうか」と心配していたけれど、意外にもすぐにどこかへ内線電話して、「後で作業員を向かわせますから御安心を」と言ってくれた。

◆けれどすぐには来られないというし、なにせ私と相方共にそう楽観的でもないので、救助開始まで線路脇のフェンス越しに小猫を見守る。15分、30分と経つも作業員は来ず、小猫は段々疲弊していく。見てるこっちの胃が痛む。

◆そして一時間も経とうかという時、ついに懐中電灯をぶら下げた駅の助役さんが到着。場所を教えて、どうにか助けてもらおうとした時、小猫がおびえて後ろに飛びじさり、図らずも引っ掛かった場所から脱出成功! しかし脱兎の如く線路脇の草むらに逃げ込んでしまう。

◆「このままではまたPSにはまったり、線路に飛び出してしまう危険がある」と助役さん。一緒になって懐中電灯で照らしつつ小猫を探す。そうして15分ほど捜したろうか。ついに助役さんが小猫を確保! やったー!

◆線路から離さないとまた同じ事になる恐れがあるので、助役さんと一緒に小猫を抱えて、線路からだいぶ離れた駐車場まで歩く。ニャーニャー鳴きつづける猫を抱えながら、相方と小猫の処遇について検討。「今のうちでは飼えないし」「でもこのまま見捨てるのも」「うちの近所の公園で野良猫が何匹も餌付けされているから明日そこへ連れて行こうか」「馴染めると良いけど」・・・・・・。暴れる小猫に引っかかれ、噛み付かれながらも駐車場にひとまず小猫を置き、助役さんは帰っていった。ありがとう。

◆さてこれからどうしたもんかと、相方と相談していると、駐車場の角から猫がニャーンと鳴いて覗いていた。気のせいか顔立ちが小猫と似ている気がする。もしかして・・・

◆相方と二人、小猫を置いてそっと物陰に隠れると、小猫がダーッと猫に走り寄り、ひとしきり鳴き交わしたあとお互いの頬を摺り寄せ、二匹で連れ立って近くの家の庭に入っていった。どうやら本当の親子だった様子。小猫の鳴き声を聞きつけて、親猫が様子を見にきたらしい。感動の再会。なんだか出来過ぎでウソみたいな本当の話。私は涙がダー。良かった、良かった。


◆で、一体何が言いたいかといいますと、「持ってて良かった、懐中電灯」ということでして。 草むらに逃げ込んだ小猫を探している間、カップル一組と女性二名が、それぞれ「さっき通りかかった時声がしたけどどこにいるのかわからなかった」といって再び様子を見に来ていたのです。何が彼我の間を別ったか。懐中電灯を持っていたか否かということです。彼らが見つけることすら出来なかった小猫を、たった一本の懐中電灯が救い出すきっかけをつくったのです。

◆これがきっかけで、より明るく、より遠くに光の届く懐中電灯を捜し求め、ついにこんなものを買ってしまいました。どのくらい明るいかというと、大抵の原チャリのヘッドライトと同じかそれ以上といった感じです。(ただし原チャのヘッドライトの方が広範囲を明るく照らしたり、より遠くに光が届く場合もあります。)

◆これで道を照らして歩いていると、そこらの犬がおびえた鳴き声を発したりします。