権力が狂気を規定する

アルコール依存社会―アダルト・チルドレン論を超えて

アルコール依存社会―アダルト・チルドレン論を超えて

 政治において最も恐ろしいのは戦争を知らないタカ派の強硬論だ。戦争中は言うに及ばず、状況下において常に泥をかぶるのは現場つまりは前線であり、そこから後方に遠ざかるにしたがって楽観主義が現実に取って代わる。そして最高意志決定の段階においては現実なるものはしばしば存在しない。戦争に負けているときは特にそうだ。

 本書において著者は患者としてアルコール依存症を体験した言わば「前線」の人間であり、医師が、公正な診断を下す為に疾病を常に客観視しなくてはならない以上疾病に対して常に第三者であり続けなくてはならないとするならば、患者本人こそが唯一疾病と直に向き合うことの出来る「前線」の人間であり、それゆえ、医師や研究者といった「後方」の人間が持つことの出来なかった視線でそれを見、研究することが出来たと考えるのはごく自然なことではあるまいか。本書で述べられていることは、少なくとも、象牙の塔の中でのみ通用するような特殊なものではないし、まして評論家と称する人間が垂れ流すような浅薄な議論でもない。


 ・・・まだほとんど読んでもいないのによくここまで書評めいたことが書けるよなあ。いや、でもこれは読んどくべきだと思います。