100ユーロ?

◆下記のコピペ(2ch由来)を見てから小一時間、頭の上にハテナマークが付いたまま離れません。

100ユーロ紙幣
275 名前:水先案名無い人[] 投稿日:2010/01/18(月) 14:06:39 id:mdFQr2NqP


ときは8月、黒海沿岸の町。雨にぬれる小さな町は活気がなく、すっかり寂れていた。
人々は借金を抱えて苦しい生活をしているのだ。
 
その町へ、一人の旅人がやってきた。そして町に一つしかないホテルに入ると、
受付のカウンターに100ユーロ紙幣を置き、部屋を選ぶために2階へ上がって行った。
ホテルの主人は100ユーロ紙幣をひっつかんで、借金返済のために肉屋へ走った。
肉屋は同じ紙幣を持って養豚業者へ走り、100ユーロの借金を返した。
養豚業者はその紙幣を握ると、つけにしてある餌代と燃料代を払うために販売業者に走った。
 
販売業者は100ユーロ紙幣を手にすると、この厳しいご時世にもかかわらず、つけでお相手をしてくれる
町の遊女に返そうと彼女のもとに走った。遊女は100ユーロ紙幣を懐にしてホテルに走り、
たびたびカモを連れこんだホテルに借りていた部屋代を返済した。
 
ホテルの主人は、その100ユーロを受け取ると、紙幣をカウンターの元の位置に置いた。
ちょうどそのとき、部屋をチェックして2階から降りてきた旅人が、どの部屋も気に入らないと云って
100ユーロ紙幣をポケットにしまいこみ、町を出て行った。
 
誰も稼いでないけど、町中の誰もが借金を返し終わり、町は活気を取り戻した。

◆ここまで書いた時点でようやく理解できた。納得。ホッ。 サブプライム問題への皮肉なんですね、わかります。

 解説、要ります?

ひょっとしたらこれで悩んでいたのは僕だけだったのかも知れないけど、一応解説、というかもう備忘録。

・この小さなコミュニティで、旅人が来る以前、皆が借金をする以前に、最初に100ユーロを持っていたのはホテルの主人。
・その100ユーロを、主人は遊女に貸し付けたことになる。
・以下、その100ユーロは遊女→販売業者→養豚業者→肉屋の順に貸し付けられ、最後にホテルの主人に貸し付けられた。
 
◆つまり、100ユーロは既に貸付金の名目でホテルの主人のもとに戻ってきていた。各人に残ったのは書類上の借金と貸付金。

・そこに外部から現物の100ユーロがやってきた。
・それを一度各人の手に渡すことで、書類上の借金と貸付金を相殺することが出来た。
 
◆言い換えるなら、当初各人は100ユーロの借金をしつつ、他者に100ユーロを貸し付けた(借金をして「100ユーロの価値を持つ債権」を手にした)わけで、資産のプラマイはゼロになっていた。
・つまり、旅人が持ってきた現物の100ユーロが各人の手に渡っていくことで、債権が現金に置き換えられたので借金を返せて辻褄が合ったという話。
 
・簿記の資格持ってる人はこういうレトリックには騙されないんだろうなあ……


◆この話で私が混乱した原因

・なぜホテルの主人が肉屋に借金をしたのか。(遊女に貸す金があるなら肉屋に払えよ!)
・最初の100ユーロはどこへ消えたのか。(消えてはいなかった。遊女から返済される変わりに肉屋を通じて貸付金の形で戻ってきていた)
・旅人がもたらした100ユーロの意味は。(各人の借金を帳消しにしてあげますよー、という証文。もしくは、各人の債権に流動性を担保するための信用、とでも言えばよいのかな)


◆この話は、旅人がもし来なかったとしても、

・(主人が肉屋から借りた100ユーロをコミュニティの外への支払いに使っていないのなら)ホテルの主人が肉屋から100ユーロを借りたらすぐに、
・遊女が販売業者に対して持つ100ユーロ債権を、ホテルの主人が100ユーロで買い取り(つまり、販売業者の借金を主人が肩代わりして払う形になる)、
・遊女は受け取った100ユーロで、販売業者が養豚業者に対して持っている債権を同じように買い取り、(養豚業者の肩代わり)
・以下、各人が同じことを繰り返せば、全員の帳簿上の借金は抹消できた。
 
・それはつまり、自分がお金を貸した相手が持っている借金を肩代わりして返してあげる行為のようにも見え、また、実質上、金を貸した相手の借金を帳消しにしているようにも見える。

◆これが現実だと、100ユーロ債権を誰かが割り引いて(例えば80ユーロで)買ったりするから、20ユーロ損する人と120ユーロの現金を手にする人が出てきたりしてややこしくなる。しかも金融経済は実体経済から離れて書類上だけでこういう遣り取りをするからもっとややこしい上に、利益も損益も帳簿上だけで膨れあがったりするから、なおややこしい。そして実体経済から金融は乖離をしていく。

 

サブプライムローンは、アレです。家の価格(住宅市場)がバンバン上がっていた時期に、本来ならお金を借りることが出来ない信用度の低い人たち(サブプライム)でも、家を買うためにお金を借りることが出来るという住宅ローン。お金が返せなくても家を売れば、買ったときよりも家の値段が上がっているので、借金を返済してもおつりが来た。

◆そこで、借金しては家を買って、転売して借金を返しつつ利益を得る、という「住宅転がし」が流行り始めた。

◆そこに証券会社が目をつけた。

◆少しでも多くのお金を用意して、サブプライムの人たちに貸して利息を儲けたい金融機関。でも手持ちの現金には限りがあるし、お金を返して貰うのを悠長に待っていたら儲けを逃す。

◆そこで、金融機関が貸し付けたサブプライムローン債権(わかりやすく言うと借金の証文ですね。)を、証券会社が割安で買い取ることを提案。

◆金融機関は少しでも多く現金を回して貸し付ければ、右肩上がりの住宅市場でいくらでも儲けを出せる。

◆証券会社は、家の値段が上がり続ける限り取りっぱぐれのないサブプライムローンの債権を、幾つも集めてきて転売する。

◆家の値段だけじゃなくて、サブプライムローンの債権それ自体が価値を持ち、その値段まで上がり始める。

◆証券会社の主な仕事は、顧客から預かったお金を運用して、増やして返すこと。その仕事にサブプライムローン債権はうってつけ。

◆いろいろな債権やら何やらに、運用リスクを低減するためにサブプライムローン債権を組み込み始める。「サブプライムローン証券」である。

◆運用益が高いので馬鹿売れ。住宅市場が安定して上がっているので、サブプライムローン証券の信用度も上がり続け、格付け会社モノライン)による格付けも上がりっぱなし。

◆ところが、需要分を満たし終えた住宅市場は急速に値下がりを始める。

◆そうなるとサブプライムの人たちは借金を返せなくなる。すると、サブプライムローン債権は換金できなくなり、価値が急速に下がる。

◆そうすると、サブプライムローン債権を組み込んだ全ての証券の価値が下がり始める。

◆証券会社の客があわてて金を返せと言い出す。証券会社はサブプライムローン証券を売りまくる、安くしないと売れないのでますます価値が下がる。

◆高く買って安く売るばかりだと、証券会社はつぶれる。みんながそう思うと証券会社の商品が売れなくなって、実際につぶれる。

・これがいわゆるサブプライムローン問題。


◆そうすると、今度は、そのサブプライム証券に高い価値があるという格付けをした格付け会社の評判が落ちる。「あそこの格付けは当てにならない」

・これがいわゆるモノライン問題。

◆そうなると、今度は他の証券化商品の信用が落ち、価格が下がり、証券会社は困り、格付け会社も信用を失い、つぶれていく。(例えばリーマン・ブラザーズ。ここからリーマン・ショックという大不況に発展していく。)

◆銀行なんかも証券会社の商品で顧客の預金を運用していたもんだから、さあ大変。利益が出ないとつぶれてしまう。

◆あわててお金を貸し付ける業務を縮小してお金を貸さなくしたり、貸していた人に早く返すように言う。

◆銀行からお金を借りていた会社は困り、つぶれたり、事業の規模を縮小したりする。

◆いやあ、不景気になっちゃいましたよ。びっくり。


備忘録として書いているので説明はへたくそだし、かなり単純化して書いているので事実を正確に記述しているわけではありませんが、僕ら一般市民が理解するにはこの程度で良いんじゃないかと。そんなメモ。