中川さんと五条さんをきっかけに酒について思ったこと

◆五条さん(id:gojopost)さんの記事(http://d.hatena.ne.jp/gojopost/20091004)を拝読して、色々と考えたこと。
(コメントさしていただこうかと思ったのですが、長くなるのでこちらで勝手に書く形に致しました。)


◆収まりを見せることのない*1アルコール依存症の蔓延。具体的な対策を打つとしたら、大事なことは以下のふたつだと思います。

・とにかく、アルコール依存症者が酒を手に入れにくくすること
・一般人、あるいは少なくともアルコール依存症の予備軍の人がアルコール依存症に陥らないようにすること


◆五条さんは「禁酒法」について言及されていましたが、おそらく以下の3点で困難が予想され、ゆえに、法制化は難しいと思いました。*2

1、アルコールは製造が(アンフェタミン等と比べて)容易なので、非合法組織の資金源となる恐れがある。一般の方が「禁酒法」と聞いてまず考えるのは映画『アンタッチャブル』のような世界なので、そのイメージが先行する限り法制化は困難。

2、アルコールの提供が禁止されれば、酒店・バーや居酒屋・酒造メーカーは失業あるいは他業種への転換を迫られる。酒の原材料(米・麦・ホップ等)を製造する一次産業従事者も同様。それらの方々は当然反対する上に、禁酒法が実現してもそれらの方々への補償(仮に失業保険だけでも)に多くの費用がかかる。

3、インフルエンザ予防で一気に販路拡大した消毒用エタノールや、CO2減らしのための燃料用バイオエタノールでもアル中なら飲む*3し、それらの一般販売を禁止するのは社会的リスクが大きすぎる。

◆じゃあ具体的にできることはなんだろうかと考えたときに、まず思いついたのが

公衆酩酊罪の創設

です。西欧や合衆国・カナダ等で実績のある法律です。五条さんもご指摘の通り、「日本は酒害について甘い」です。そこで、酒に飲まれることが恥でないなら、罪にすればいい。

 日本にも既に「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」というものが存在していますが、もう少し踏み込んで、迷惑をかけたかどうかでなく、単に酔うことが犯罪を構成するようにするのです。公共の場、すなわち電車やバス、飲食店内で酔っぱらうことに刑罰規定を設けることで、無理矢理にでも酒量を規制してしまうという荒療治です。
 欧米と日本では宗教的背景が違う、とか仰る向きもあろうかとは思いますが、公共の場で酩酊することが日本で恥でなくなったのは割りと最近である可能性もあります。1700年代に日本で書かれた武士道の指南書である『葉隠』の中に、「近頃の若い奴らは自分の酒量もわきまえず正体を無くすまで飲んだりして、まことにけしからん」といった記述があるのです。裏を返せばその当時からアル中がいた可能性もあるわけですが、そういうことをしてはいかんという空気があったこともまた事実だといえます。


◆さらに一段厳しい手法を採るなら、

酒の購入に免許が要るようにする

のはどうでしょうか。タスポのお酒版といったところです。しかも、対面販売でもそれがないと酒が購入できないこととし、さらに、飲酒運転や先の公衆酩酊罪で検挙された方は酒類購入免許は没収。ただし、節酒誓約書*4を書き、アルコール依存症の教育を受けた上で、数千万円単位*5の再交付料を払えば再交付出来るものとします。納められた再交付金は飲酒運転者によって殺されたりけがを負わされた方への給付金*6アルコール依存症治療のための基金として使います。どうでしょう。


◆そもそも、五条さんも指摘されたように、アルコール依存症についてマスコミがきちっと取り上げることは滅多にありません*7。なんでかというと、これも五条さんの指摘の通り、スポンサーである酒造メーカーに気兼ねしてのことがあるんでしょう。マスコミなんて所詮は広告業。仕方ありません。

◆そしてそれ以上に、アルコール依存症者が減らない事で起こる不経済(損失)よりも、アルコール類を現状のままばんばん売って得られる利得のほうが大きいということがあるのではないでしょうか。 結果的にその利得から酒税や消費税、メーカーや酒販店・飲食店から得られる法人税で地方も国も潤うわけで、得られた税収から一部が健保の国庫負担金としてアルコール依存症の治療に使われるわけです。 今までも、そしてこれからもきっと、それが一番丸く収まるということなのでしょう。



アルコール依存症、というかもうアルコールの危険性については、マスコミがほとんど取り上げない以上、小学校あたりから高校までずっと教えつづけてしかるべきですが、人間ってのは害を教わったぐらいで不健康な(社会的)慣習をやめるほどには賢明ではありません。 一般的にいって、不健康な習慣ほど魅力的に感じてしまうようにさえ見えます。煙草しかり、徹マン、カラオケオール、脂肪分の多い食事。日本人の死亡原因からいえば、酒よりも脂肪分の多い食事の方がよっぽど体に悪く規制されるべきとも言えます*8
 そんな人間の不合理性を乗り越えてでも、アルコール依存症に陥る危険や依存症者の立ち直りを公的に支援するための枠組みをつくるとするなら、上にあげた2点くらいがギリギリ実行可能性があるところなんじゃないでしょうかねえ。


◆最後に中川昭一さん。ネット界隈で色々*9と書かれていますが私には判断が付きません。

 ただ、某関西大学法学部で政治学科の助教授が叫んだ「政治の判断は衆院本会議場で行われるんじゃない、酒宴の席で決まるんだ!」という台詞が本当ならば、アルコール依存症の素質のある人が政界入りしたら、そりゃもうひとたまりもないでしょうね。 中川さんがそうだったのならば、さぞお辛かったであろうとお察しいたします。


◆追記:忘れてましたが、酒類の自販機は全面撤廃すべきですね。あれは百害あって一利無しです。そもそも売られている酒の種類が、酒の愛好家なら到底手にしない類のものばかりで、販売対象が酒に味ではなく酩酊を求めている人(=アルコール依存症者)であることが明白です。

*1:具体的な対策を共同体なり政府なりが取らない限り、勝手に患者が減ったりする類のものではないので

*2:五条さんを責めてるわけじゃないんです。

*3:気合いの入ったアル中ならモンダミンリステリンでも飲んでしまいます。

*4:違反したら二度と再交付できない

*5:現実的な金額としては数十万円くらいが妥当か。保釈金なんかと違って還付される性質のものじゃないですから。

*6:犯罪被害者給付金は、交通事故の場合、ひき逃げでないと交付されない。危険運転致死傷罪であれば交付されるが、単なる酒気帯びでの業務上過失致死とされれば交付されない。

*7:たまにNHKクローズアップ現代なんかで取り上げたりします。

*8:これはあくまでレトリックであって、高脂肪の食事の依存症になって会社を辞めざるを得なくなったり、盗みを働いてでも脂肪を手に入れようとしたりといった、正確な意味での依存症になることはないのでアルコールとは明らかに別種です。

*9:G7ではわざと酔っぱらってアメリカの米国債買い支え要求をかわした、とか云々。