労働契約法について

■ホントはブログでこんなことを書きたくないのですが、こみ上げる嘔吐感に堪えられないので書きます。ひどくイヤミなことを書きますので、畳みますからなるべくなら読まないでください。批判なさりたい方はどうかご自分でブログを立ち上げて書いてください。議論する気はありませんので、あしからず。

ホワイトカラーエグゼブションより恐ろしい「労働契約法」 可決間近 (from越えられない壁

労働契約法案 撤回せよ(from共産党機関紙『赤旗』

■あるひとつの政党の言説に依って政治のハナシなんてしたくはないのですが、本当のことならあまりにヒドイうえに、今日までTVのニュースでは全く報じられていないようなので、ここにメモとして書きます。


■上記リンク先の内容をまとめると、

・「労働契約法」が成立すると、労使間の合意がなくても就業規則を事後的に改変できるようになる
・「労働契約法」に民主党は反対しておらず、今国会中にも成立する見込みである
・たとえば、就業規則の変更だけで、期限の定めのない雇用契約(正社員含む)から有期雇用へと就業後に改変することは「合理的と判断することは難しい」(青木労働基準局長)。それでも、「合理的」かどうか労使間の協議によって決定する必要はなくなる


■労働者側からするとトンデモない話なのですが、経営者側からすれば、会社の経営そのものが危うくなっているときに労働契約(含就業規則)に縛られて身動きが取れなくなる、と言う事態を回避できるのでしょう(でもそれってどんな事態なのでしょうか)。場合によっては従業員を切り捨てることで「会社」は生き残れるのです。経営者は従業員の人生すべての面倒を見る立場ではないし、まして退職した後の死生などそれこそ関係のない話で、国が面倒を見るだろう。会社は先進各国より高い法人税を払っているんだから問題ない、となります。

■あれ、そういえば生活保護費も減額することがほぼ確実になりましたよね(ここでは関係のない話ですが)。

■まあ、上場企業なら会社は従業員のものでも経営者のものでもなく株主のものなので、その権益を守るためなら、合法であればなんでもするんでしょう。


■J.ロールズという人がいまして、70年代に書いた『正義論』と言う本の中で、私たちがそれぞれどういった社会階層に属しているかわからない状態(無知のヴェール)におかれたとき、全員が同意できる「社会正義(社会のあるべき姿)にかなった配分原理」は何か、と言う問いを立てました。

■結論として彼は、「すべての人が機会の平等(参加のチャンス)を得られること」と、「もし不平等があるなら、それは、一番恵まれない状態の人々(効用の最も低いグループ)にもっとも有利になるものしかダメ」というふたつの原理が選択されると断言します。*1

■その是非はここでは書かないとして、それでもひとつはっきりいえることがあります。それは、立法と行政に携わる主要な人たちは、こういった考えを持っていないということです。「自分がもし労働者側だったら」とか、「自分が生活に困窮したら」なんて想像をめぐらしてはいないだろうし、そもそも一度だってそういった立場におかれたことなどないのでしょう。

■S.ジジェクは、東欧諸国における共産主義体制の崩壊について語る際に、「モグラが地下を掘り進めた結果、ある日突然に地面が崩れ落ちるように、体制が崩壊したように見える」とか何とか書いていました*2。 ひょっとすると、上記以外にも様々な為政者とその周辺に有利に働くほうが整備されていって(あるいはもうなされているのかも)、ある日突然、この国の体制がとんでもなく大きく変わってしまう(ように見える)日が来るのかもしれません。そんな気がして、あまりに気持ち悪かったので、柄にもない政治系のエントリを書きました。少なくとも、この国で資産家以外が経済的な不安を感じずに生きることはもう無理ですし。

■とりあえず、労働契約法が成立すると、労働基準法の一部は死文化します。


※追記: 
「労働契約法」が出てきたそもそもの背景として
読売オンライン

・これまであいまいだった整理解雇時の要件を明確化
・出向や配置転換等に際して当該従業員の意向を確認することや転籍の承諾義務を盛り込む(罰則なし)
過半数労組のない企業における「労使委員会」の設置
・有期労働契約のルール明確化
・労働時間を自由に決められる「自律的労働時間制度」の創設(ホワイトカラー・エグゼンプションを想定)
などを目的とした、雇用ルールの明確化を目的としたもの

■他、リンク
雇用ルールと労働契約法
 共産党が噛み付いたのは第10条についてのようです

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

 逆に第17条なんかは本当に必要な法だと思います。共産党あたりの過剰な反応に踊らされすぎた自分に反省。

第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

yahoo辞書-労働契約法とは
労働契約法試案(from連合総研(連合のシンクタンク)
 連合の当初の思惑を離れてひとり歩きして行かないことを望むばかりです。

*1:これはものすごく乱暴にかいつまんだ説明で、実際には種々の細かい設定があったり、様々な立場からの反論とそれに対する再反論がいまだに続いています。

*2:S.ジジェク酒井隆史田崎英明訳 『否定的なもののもとへの滞留』 筑摩書房 2006年、何ページだったかさっき探したけれど見つからなかったので後でもう一度探します。p542にありました。正しくは「共同体の(…)水面下での解体に関して、ある意味で、『何事かが生じる』以前に、もぐらが仕事をやりとげてしまい、決定的な事象は生じてしまっているのだともいいうるのである」