試練

最愛の敵


・買い物の途中でふらりと立ち寄った喫茶店。アイスティーを頼むと、シロップと一緒にスコッチが出て来た。
・ワンショットの4分の1位。飲んだとしてもこの程度なら決して酔わない筈だ。芳しい香りが私を誘惑する。
・けれど飲めば物足りなさを感じ、次の一杯を頼まずにいられなくなるだろう。あとはアル中のお定まりの坂道をまっしぐらに転がり落ちるだけだ。
・そしてここは梅田だ。15分も歩けば、かつて足しげく通った馴染みのバーにたどり着く。今は17時半。バーはすでに開いている。

・神よ、これが試練なら耐えましょう。悪戯ならば呪います。


・追記

・何とか堪えてアイスティーを飲み干し、店を立ち去りました。

・次の目的地であるロフトに向うまでの間、ずっと頭からウィスキィのことが離れませんでした。そしてロフトにたどり着き、エスカレーターの手すりを握ろうとして、初めて自分が、ここに来るまでの間ずっと固く拳を握り締めていたことに気付かされました。それはもう爪のあとがくっきりと残るほどに。

・私は、AAに繋がり、断酒も11ヶ月を迎えて、自分の生活から酒が自然と離れていっているような気がしていました。でも、そうじゃなかった。ただ、ガマンの断酒を続けていただけだという事に気付かされました。

・それはひとりでやめ続けていたときと何も変わっていないということ。私は出されたスコッチに全く手をつけなかったけれど、心はもう飲んでしまったも同然だった。AAでこの顛末を吐き出すまでの間、私の頭の中はウィスキィのことしかなかった。

・神に自らの人生をゆだねる、すなわち自分が無力であるということを、何となく頭では解かったつもりでいたのが、実は全くそうでなかったということ。酒を断ってから、自分が大きく変わったような気で居たのが、目の前に突きつけられたわずかばかりのスコッチで簡単に崩れ去ってしまうほどに脆いものだということに気付かされ、愕然としました。

・ともあれ、今回の難局は無事に乗り切ることが出来ました。それは勿論AAのおかげだし、AAの仲間の励ましや助言のおかげでもあった。そして何より、誘惑に勝てるようになったということは、自分自身のひとつの成長なのかもしれない。そう、前向きに捉えて行きたいと思います。前向きに。