不意に熱い涙がこぼれてきた。悲哀とも苦痛ともつかぬある感情の高ぶりが、あとからあとから、涙を押し出してくる。何故泣いているんだろう。その理由すら判らぬままに、こぼれ落ちてくる涙を拭う。

 私は、泣くことを忘れて居たのかも知れぬ。泣き方をすら。

 自らの腕を傷つけてすら収まりのつかぬある種の情動を、もはやどうすることもままならず、涙を流すことで少しでも気持を落ち着けようという身体の防御反応かも知れぬ。

 何が哀しいのだろう。私は家人の皆寝静まったこの家で、声をしのんで泣いている。何故泣きたいのか判らぬままに、何物にもすがることの出来ぬ寂寥感を抱え、流れ出る涙を嗚咽を堪えて拭いつづける。