羈絆

 昨日は、結果として生きることを選び取ることとなった。帰宅した時に感じたある種の妙な感覚は忘れられない。家を出る時に、「これで最後、見納めだ」とばかりに意を決して出たものだから、帰宅しても何処か馴染まない風なのだ。今此処に居る筈のない人間が蟄居している、そんな感じがしてならない。私は此処にすら居るべきではないのか。

 昨日の企ては結局徒労として終わった訳だが、だからといって、私を取り巻く状況は何ら変化などしていない。結局、私自身が変わるか、世界が変わるか、私が逃げ出すかしか選択肢はない。誰にも頼らず歩いて行かなくてはならないのだ。


 今の私は、酒という支柱を失い、ポッカリと空隙の空いた不安定な存在でしかない。柱のない家のように、定まるところなく、いつ崩れるかという不安を抱えた存在。回転軸の定まらない不安定な独楽のような。
 独楽もいつかは止まる。私が土に還えり、無機物になってしまった後で、30億年もすれば太陽の膨張する関係で地球上に人は住めなくなる。やがて地球も太陽に飲みこまれ、その太陽もいつかは燃え尽きる日が来る。200億年もすればこの宇宙が熱的死を迎える。もしくはビッグクランチする。それらがどんな風に起こり、終息して行くのか。それは最早私には関係のないことだ。あわてず、落ち着いて、死ぬまでは生きて行こう。