治療の価値は

 酒がない――私が女よりも愛した酒が、私の人生の一部分をはっきりと形作っていたあの酒が――。もう、二度とは飲めなくなってしまったのだ。
 何が、治療だ。治療を進めれば進めるだけ、酒から遠ざかれば遠ざかっただけ、私の人生はより苦しいものに、惨めなものになる。


 結局、私は酒に問題があった訳ではない。飲み方の問題も、表層的なものだったに過ぎない。問題の本質は、素面のときにこそあったのだ。素面のときに何も問題が無ければ、酒に逃避する必要など無いのだから。私だ。私自身の中にこそ問題があるのだ。


 今やっていることは治療などではない。例えるなら、治療とは、壊れた機械を修理するようなものだ。ところが私は、最初から設計の間違った機械を無理矢理、なだめてすかして動かしているようなもので、修理すれど、修理すれど、次々に不具合を起こしてゆく。もとがおかしいから直しようが無いのだ。