赤い風船

 シラフで外出したら緊張と不安感で手が震え出した。なにか時計の歯車のようなものに秒刻みで追い立てられるような切迫感に苛まれる。
 居たたまれなくなって近くの喫茶店に飛びこんでビールを頼み、ジョッキの3分の2ほどを一息に飲み干す。そして小刻みに震える手で煙草を吸っていると、酔いがうっすらと廻ってくるにつれて、手の震えが嘘のように消える。さらに残りを飲み干してお代わりを頼む頃にはすっかり落ちつきを取り戻して、周囲の景色が急に和んだように見えてくる。時間の流れ方が緩やかになる。

 医者には酒でなくワイパックスセルシンを服用する事で不安を抑えるように言われているのだが、効き方の速さが断然違う。なおかつ薬は眠くなるが、酒は余程大量でない限りそのようなことはないし、しかも気分が明るくなる。ダメだと判ってはいても、つい飲んでしまう。

 しかし、いつまでもこんな生活を続けられる筈がない。身体への負担が、風船のようにじわりじわりと膨らみつづけ、ついには破裂してしまう時が来るだろう。