命の選択を

 自尽に向けた計画を立ててみる。私にとっての世界が終わる日。

 連休が明けたら大学院の書庫も開くので、その日がいい。借りている本を全て返すのだ。そして研究室の私の机を整理する。書類は全て廃棄し、本は欲しがる人があれば譲り、あとは研究室の共用書棚に寄付してしまう。そう、冥府への旅は、荷物が少ない方がいい。

 それらの作業を、研究室の冷蔵庫に入れておいた、水割りのペットボトルを飲みながらやってのけよう。鼻歌まじりで。最後の日くらいは生きる事を楽しんでも悪くはあるまい。そうだ。ぱりっとしたスーツで決めていこう。

 そして最後の晩餐だ。そのときの気分で決めようと思うが、学校から少し離れた所にある高級蕎麦屋に行ってみるのもいいだろう。最初は日本酒と、肴に板わさと蕎麦味噌。一息ついたら盛りを手繰って、蕎麦湯を貰ってしめる。そして研究室に戻って、常備ボトルのウィスキーを食後酒に一杯やる。家では喫わない手巻き煙草を最後に1本喫って、煙草も酒も残りは全部棄てて綺麗に片付ける。発つ鳥あとを濁さずだ。そうしてさっぱりした気分で大学院を後にする。

 街へ出たら、行き付けのカフェバーでウィスキーを飲もう。もう1つのバーで、テキーラをシューター・スタイルで飲るのもいい。

 いよいよ最後のとき。ずっと以前から決めてある場所で、然るべき方法によって冥府へと。