ストレート・ノー・チェイサー

 大学4回生の頃に大酒を飲み始めた頃を思い出した。
 そのころはもうあらかた単位は取ってしまっていたので、週に数日、午後の講義に出席するだけだった。少し早めに家を出て、大学近くの安食堂やラーメン屋で腹を満たし、時間に余裕があれば、昼間からカクテルを出すカフェバーに出かけてカミカゼ(グレープフルーツの果汁とコアントローとウオツカのカクテル。アルコール度が高い。)を1〜2杯引っ掛けてから授業に出たものだった。授業が終わったあとはまたその店に入り、カミカゼジントニックを飲んで、それから帰路についた。
 飲みに出掛けるともっと酷かった。一軒目のバーでビールをチェイサーにしてテキーラのストレートをダブルで。そのあとジントニックか何かを飲んでから行き付けの店に出かけ、ウィスキーのストレートやカミカゼをしこたま飲んだ。肴はほとんど手をつけなかった。
 駅や歩道に吐き戻したことが何度あったかわからない。学生風情で終電を逃して、タクシーで帰宅したことも1度や2度では済まなかった。
 その頃私は、就職に失敗し、第1希望の大学院入試にも落ちて、ヤケになっていた。卒業式のその日に、死んでしまおうと思って居た。場所も決めて、遺書も用意していた。これ以上誰にも迷惑を掛けたくなかったし、人と関わることが苦痛だったのだ。
 だが2月に、現在私が通っている大学院に合格し、事態が変わる。授業料の振り込み期限が卒業式よりも前だったのだ。
 私は考えた。もう少し、生きてみてもいいのではないか。大学院の研究に、浅学菲才な自分が何処まで着いて行けるか判らないが、最後の可能性に賭けてみようと思ったのだ。